テレワークの普及やクラウドサービスの拡大を背景に、「ゼロトラスト」というセキュリティモデルが注目を集めている。従来のVPNに代わる新しいアプローチとして、企業のIT担当者を中心に関心が高まっているが、個人ユーザーにとっても理解しておきたい概念だ。この記事では、VPNとゼロトラストの違いをわかりやすく比較し、それぞれの特徴と使い分けを解説する。

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VPNとゼロトラスト、それぞれの考え方
VPN:境界防御モデル
VPNは「境界防御」という考え方に基づいている。社内ネットワークという「信頼できる領域」を作り、外部からの接続を暗号化されたトンネルで安全につなぐ仕組みだ。一度認証をクリアしてVPNに接続すれば、社内のリソースに広範囲にアクセスできる。
たとえるなら、城壁で囲まれた城下町のようなもの。城門(認証)を通過すれば、町の中(社内ネットワーク)は自由に歩き回れる。
ゼロトラスト:すべてを疑うモデル
ゼロトラスト(Zero Trust)は、「社内・社外を問わず、すべてのアクセスを信頼せず常に検証する」という考え方に基づいている。ユーザーの身元だけでなく、使っているデバイスの状態、アクセスする場所、時間帯なども含めて、アクセスのたびに認証・検証を行う。
城壁の例えで言えば、城門だけでなく、町の中のすべての建物に入るたびに身分証の提示が求められるイメージだ。
VPNとゼロトラスト(ZTNA)の違いを比較
ゼロトラストを実現する具体的な技術として「ZTNA(Zero Trust Network Access)」がある。VPNとZTNAの違いを比較すると以下のようになる。
| 項目 | VPN | ZTNA(ゼロトラスト) |
|---|---|---|
| セキュリティモデル | 境界防御型 | ゼロトラスト型 |
| 信頼の単位 | ネットワーク単位 | アクセス単位 |
| 認証のタイミング | 接続時のみ | アクセスのたびに継続的に |
| アクセス範囲 | ネットワーク全体に広範囲 | 必要なアプリのみに限定 |
| デバイスの状態確認 | 基本なし | デバイスの健全性も検証 |
| 拡張性 | 接続数が増えるとボトルネック | クラウドネイティブで拡張容易 |
| 導入コスト | 比較的低い | 高め(導入設計が複雑) |
| 個人利用 | 対応 | 基本的に企業向け |
社内で移行を検討する立場なら、ゼロトラストの考え方や導入ステップを図解つきで解説した本を1冊読んでおくと、社内での説明や議論も進めやすくなる。


企業が「脱VPN」を検討している理由
記事執筆時点で、多くの企業がVPNからZTNAへの移行を検討している。その背景にはいくつかの課題がある。
テレワークの拡大でVPNがボトルネックに
テレワークの普及により、VPNに同時接続する従業員数が急増した。VPNは接続数が増えると帯域が逼迫し、通信速度の低下や接続の不安定化が起きやすくなる。これが業務効率の低下につながっている。
在宅勤務でWeb会議の音声が聞き取りにくいと感じている方は、回線側の対策とあわせて、マイク付きのヘッドセットで手元の音声環境を整えておくのもひとつの手だ。
VPN経由の侵入リスク
VPNの認証情報が漏洩した場合、攻撃者はVPN経由で社内ネットワーク全体にアクセスできてしまう。実際に、VPNの脆弱性を突いたランサムウェア攻撃の被害事例は複数報告されている。ゼロトラストモデルでは、仮に一つのアカウントが侵害されても、アクセスが特定のアプリに限定されるため被害を最小限に抑えられる。
クラウドサービスの活用拡大
SaaSやIaaSなどクラウドサービスの利用が増えると、すべての通信をVPN経由で社内ネットワークを通す必要性が薄れる。ZTNAはクラウドサービスへの直接アクセスを制御できるため、より効率的なアクセス管理が可能だ。
ゼロトラストのメリットとデメリット
メリット
- きめ細かいアクセス制御で、内部からの情報漏洩リスクを低減
- クラウドサービスとの親和性が高い
- スケーラビリティに優れ、接続数増加に柔軟に対応できる
- デバイスの状態(OSバージョン、セキュリティパッチ適用状況)も検証するため、脆弱なデバイスからのアクセスを防げる
デメリット
- 導入コストと設計の複雑さ(既存システムとの統合が必要)
- 運用負荷が高い(ポリシー設計と継続的な管理が必要)
- ユーザー体験への影響(頻繁な認証がストレスになる場合がある)
- 中小企業にとってはオーバースペックになりがち
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VPNが依然として有効なケース
ゼロトラストが注目されているとはいえ、VPNがすぐに不要になるわけではない。以下のケースでは、引き続きVPNが有効な選択肢だ。
個人のプライバシー保護
個人ユーザーがフリーWiFiの安全確保やIPアドレスの隠蔽を目的にVPNを使う場合、ゼロトラストは関係ない。NordVPN・ExpressVPN・Surfsharkなどの個人向けVPNサービスは、引き続き有効なプライバシー保護ツールだ。
カフェなどでノートPCを使う機会が多いなら、通信の保護に加えて、画面ののぞき見を防ぐプライバシーフィルターも用意しておくと安心だ。
中小企業のリモートアクセス
従業員数が少なく、IT専任者がいない中小企業にとって、ゼロトラストの導入はコストと運用負荷の面でハードルが高い。シンプルなVPN接続のほうが現実的な選択肢になる場合が多い。
段階的な移行期間
大企業でも、VPNからZTNAへの移行は一朝一夕にはいかない。既存のVPN環境を維持しながら、段階的にZTNAを導入していくアプローチが一般的だ。


VPNとゼロトラストの共存
「VPN vs ゼロトラスト」と対立的に語られることが多いが、実際には両者は共存できる。VPNで暗号化されたトンネルを使いつつ、その上にゼロトラストの認証・認可の仕組みを重ねるアプローチもある。
企業の場合、まずは既存のVPN環境を維持しながら、クリティカルなシステムからZTNAに移行し、最終的にVPN依存度を下げていく段階的なアプローチが現実的だ。
Q&Aコーナー
Q. 個人ユーザーもゼロトラストを使えますか?
ゼロトラストは基本的に企業向けのセキュリティフレームワークであり、個人向けのサービスとしては提供されていない。個人のインターネットセキュリティには、VPNとセキュリティソフトの組み合わせが引き続き有効だ。
Q. ゼロトラストを導入すればVPNは完全に不要になりますか?
最終的にはVPNを廃止する企業もあるが、多くの場合は段階的な移行になる。レガシーシステムへのアクセスにVPNが必要なケースも残るため、完全に不要になるまでには時間がかかる。
Q. ゼロトラストの代表的なサービスは何ですか?
代表的なZTNAサービスとしては、Zscaler Private Access、Cloudflare Access、Palo Alto Networks Prisma Access、Fortinet FortiSASEなどがある。いずれも企業向けのクラウドベースサービスだ。
Q. VPNの脆弱性を突いた攻撃とはどのようなものですか?
VPN機器のファームウェアに脆弱性がある場合、攻撃者がその脆弱性を悪用して認証をバイパスしたり、管理者権限を奪取したりするケースがある。VPN機器のファームウェアを常に最新に保つことが対策の基本だ。
Q. ゼロトラストの導入にはどのくらいのコストがかかりますか?
ゼロトラストの導入コストは、企業の規模やサービス選択によって大きく異なるため一概には言えない。ZTNAサービス自体の利用料に加えて、既存システムとの統合設計、ID管理基盤の整備、ポリシー設計のコンサルティングなどの費用がかかる場合もある。詳細な費用は、Zscaler・Palo Alto Networks・Fortinetなどのベンダーに見積もりを依頼する形が一般的だ。
Q. ゼロトラストでは毎回パスワードの入力を求められるのですか?
ゼロトラストは「常に検証する」モデルだが、ユーザーに毎回パスワードを入力させるわけではない。SSO(シングルサインオン)やデバイス証明書、生体認証などを組み合わせることで、ユーザー体験を損なわずに継続的な認証を実現している。バックグラウンドでデバイスの状態やアクセス状況を自動的にチェックする仕組みのため、ユーザーが毎回手動で認証するストレスは少ないように設計されている。
Q. VPNとゼロトラストの両方を使っている企業はありますか?
多くの大企業がVPNとゼロトラストの両方を並行して運用している。一般的な移行パターンとしては、まず重要度の高いクラウドアプリケーションをZTNA経由のアクセスに切り替え、レガシーシステムへのアクセスは既存のVPNで維持するという段階的なアプローチだ。完全にVPNを廃止するまでには数年かかる企業も珍しくない。
まとめ
VPNとゼロトラスト(ZTNA)は、セキュリティの考え方が根本的に異なる。VPNは「信頼された領域を作る」境界防御モデル、ゼロトラストは「すべてを疑い常に検証する」モデルだ。テレワーク拡大やクラウド化に伴い、企業はVPNからZTNAへの移行を進めているが、個人ユーザーにとってはVPNが引き続き有効なセキュリティツールであることに変わりはない。VPNの限界と、ゼロトラストという新しいアプローチを理解しておくことで、自分に必要なセキュリティ対策をより適切に選択できるようになる。
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